目次

春寂寥
思誠寮デカンショ節
情宣行動隊の歌
秋高原に
あゝ青春
雲にうそぶく
松本高等学校々歌
一年生節
乾杯の歌
夕暮るる
燃ゆる瞳
暁告ぐる
中寮応援歌
羽音も高き
冷霧飛来
我等は若し
若き望み
静寂の大気
滔々迫る方今の
山もろともに
応援歌
戦いの歌 県ヶ丘第一部
新たなる生の歌 県ヶ丘第二部
巨鷲の姿
春深ければ
若き生命に
松高小曲
誠寮節「自由の光」
あゝ春の宵
昭和維新に
新生の歌
第九回記念祭寮歌
第十周年記念祭寮歌
「若人は誠を愛づる」の歌
噫鷲の飛ぶ
黎明以前
誠寮哀頌
誠陰行
東天あくる(東京帝国大学寄贈歌)
深志城下に
高原の黙示
筑摩野
憂誠寮
嗚呼自治の牙城
誠寮賛歌
自由賛歌
友よアルプの
新生の光
空虚なる
朝開き歌
光を呼ばん
遠征
山に微笑む
誠寮懐古
逍遙歌
応援歌
希望
山に明けては
杜の栄光
雪の筑摩野
春撩乱
思誠賦
若き力に
人の世の


春寂寥(大正九年)


作詞 吉田実
作曲 浜徳太郎

【春寂寥 口上】
富貴名門の子女に恋するを
純情の恋いと誰が言ふ。
路頭に迷える女性に恋するを
不情の恋いと誰が言ふ。
泣いて笑って風月月下の酒場に
媚を売る女性の中にも
水蓮の如き純情あり
風吹かば風吹くが良し
雨降らば雨降れば良し
酒は飲むべし百薬の長
女は抱くべしこれ人生無常の快楽
妖色美人の膝枕に快楽の一夜明くれば
夢もなし 又、金もなし
いざ歌わん 春寂寥の歌
eins zwei drei

【一】
春寂寥の洛陽に 昔を偲ぶ唐人の
傷める心今日は我 小さき胸に懐きつつ
木の花陰にさすらへば あはれ悲し逝く春の
一片毎に落る涙

【二】
岸辺の緑夏木立 榎葉陰のまどろみに
夕暮れさそふ蜩の 果敢なき運命呪ひては
命の流れ影あせて あはれ淋し水の面に
黄昏そむる雲の色

【三】
秋揺落の風立ちて 今宵は結ぶ露の夢
さめては清し窓の月 光をこふる虫の声
一息毎に巡り行く あはれ寒し村時雨
落ち葉の心人知るや

【四】
嵐は山に落ち果てぬ 静けき夜半の雪崩れ
榾の火赫くさゆらげば
身を打ち寄する白壁に 冬を昨日の春の色
あわれ床し友どちが あかぬまどゐのもの語り

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思誠寮デカンショ節

デカンショデカンショで半年暮らす
 ヨイヨイ
あとの半年ゃ寝て暮らす
 ヨーイヨーイデッカンショアラデッカンショ
おいら日本に信大なけりゃ
 ヨイヨイ
あとの奴等はのたれ死に
おいら信大に思誠寮なけりゃ
 ヨイヨイ
あとの奴等は狂い死に
おいら思誠寮に惚れない奴は
 ヨイヨイ
 木仏 金仏 石仏

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情宣行動隊の歌

ここは信州か松本の街か
松本の町なら大学は信州

大学信州の思誠寮生は
度胸ひとつの男伊達

度胸ひとつで縄手の通り
歩いていきます下駄ばきで

下駄に手拭い思誠寮育ち
ボロはおいらの旗じるし

ボロは着てても心は錦
どんな事にも恐れはせぬぞ

どんな事にも恐れはせぬが
可愛いあの子にゃかなわない

可愛いあの子もいつでも捨てる
寮祭のためなら生命まで

生命捨ててもその名は残る
信大思誠寮の名は残る
信大思誠寮の名は残る

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秋高原に(昭和二年)


作詞 百瀬勝登
作曲 吉川晴男

【一】
秋高原に 風立ちて
麗朗澄むや 山脈の
彼方に物の 響きあり
ツオイスの庭の 召太鼓

【二】
自由よそれよ 青春よ
そは征服を 要求す
桂の枝を 折り持ちて
遠く想華を 馳するかな

【三】
行け我友よ 我が勇士
我等が栄えの 歌声を
天と地とに ひびかせて
帰る日待つぞ 行けや行け
帰る日待つぞ 行けや行け
帰る日待つぞ 行けや行け
行っけぇ、行っけぇ バッキャロー!

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あゝ青春(大正十年)


作詞 吉村武生
作曲 片山尚

【あゝ青春口上】
アルペンの風颯々として
吹き来たり吹き去る
信濃の高原に
東に千山の雲を覆い
西に万岳の雪を頂きて
青春多感なりし
三年の春秋を偲んで
今誠寮の歌
高らかに鳴るを聴き給へ
(ソレー 太鼓)
大信州大学
大思誠寮寮歌
あゝ青春
eins zwei drei

【一】
嗚呼青春の歓喜より はえの力は生れ出でて
燦爛高き天の座に 生命の群のわなゝけば
聖歌を聞くやえのきばの 木梢に星は瞬きぬ

【二】
しじまに夢は甘けれど あはれ奢りに運命あり
刹那の酔にあくがれて 迷へる者よ帰り来よ
法の灯ゆらぐとき 我に帰命の祈りあり

【三】
陽光にもゆる魂の 触れゆく声に常聖の
一路はるけき若人が 真の征矢のすべるとき
王者の剣抜き出でて 若き命に照し見よ

【四】
あゝ日はかなたアルペンの 雲紅の聖殿に
我があくがれのやはらぎは さとしに笑みぬ礼讃の
友よ夕べの鐘を聞け 三年の秋の記念祭

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雲にうそぶく(大正十年)


作詞 福田美亮
作曲 浜徳太郎

【一】
血は燃えさかる朝ぼらけ 女鳥羽の岸に佇みて
君よ聞かずや雪溶けを 春は輝くアルペンの
真白き肌に我が胸に いざ朗らかに高らかに
歌い手行かむ野にみつる 大地の命踏みしめて

【二】
雲にうそぶく槍穂高 天馬の姿勇ましき
乗鞍白馬皆友ぞ 燃ゆる瞳をいかにせむ
さらばいざたて若き児よ 両手を広げよぢ登り
男の子の力ためし見む 信濃はうれし夏の国

【三】
夕べは悲し雲の色 今憧れの目をふせて
声なき声に物思ふ 若き心を誰か知る
軈ては荒ぶアルペンの 氷の颪雪の風
むせぶは何ぞ窓の外に あはれ深くも秋たけぬ

【四】
遠き静けき夜をこめて 今宵の降るや窓の雪
山よ眠るか地よ草よ なべて真白き夢を見て
目覚むるものは我一人 あゝ千載のいにしへの
真理の声を今ぞ聞く 我魂のほこらかさ

【五】
あゝ信州よ山の国 誇は高しアルペンの
峯に輝く雪を以て 希望は高しいや更に
さらば歌はん諸共に 若き血潮のゆくまゝに
あした夕べの友は山 山は我等の姿なる

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松本高等学校々歌


作詞 土井晩翠
作曲 山田耕作

【一】
千山萬岳高きを競ひ
峙つ信州日本の屋上
一、寰あまねく霊気を湛へ
民族勝りて直ぐなるところ
我が校教への聖歌を点ず

【二】
嗚呼友たゆまず急がず学び
一歩を進めて一歩を据ゑよ
四海に漲る文化の潮に
貢献おのおの其の分ありて
意義ある人生無窮に継がむ

【三】
仰ぐは高山慕ふは理想
細流次第に其の水寄せて
鯨鯢浮くべき波浪を湧かす
自然の啓示を心にしめて
希望は輝やく丈夫の未来

【四】
県の森かげ陸の月日
向上一路に並み居る今を
後には忍ばん楽土の栄と
嗚呼わが紅顔数百の健児
つとめよ青春再び曙けず

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一年生節

一年生一年生山と林檎に憧れて
やって来ました思誠寮
雪のアルペン真っ白けのけ
      真っ白けのけ
一年生一年生面接委員の手抜かりか
よくぞ入った思誠寮
その顔見れば真っ白けのけ
      真っ白けのけ
一年生一年生角帽姿はよいけれど
嬉し嬉しで遊びすぎ
差し出す答案真っ白けのけ
      真っ白けのけ
一年生一年生愛しLiebeと泣き別れ
独りしょんぼり汽車の窓
打ち振るハンカチ真っ白けのけ
        真っ白けのけ
二年生二年生酒は飲みたし金はなし
そこで質屋に飛び込んで
差し出す褌真っ黒けのけ
     真っ黒けのけ

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乾杯の歌

杯をもてさあ卓をたたけ
立ち上がれ飲めや歌えや諸人
祝いの杯さあ懐かしい昔なじみの
心の杯を
飲めや歌え若き春の日のために
飲めや歌えみそはなす神のために
飲めや歌え我が命のために
飲めや歌え愛のために
(ソレッ)
<<くりかえし>>
杯をもてさあ卓をたたけ
立ち上がれ飲めや歌えや諸人
<<スローテンポになり>>
祝いの杯さあ懐かしい昔なじみの
心の杯を
心の杯を   (乾杯!)

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夕暮るゝ(大正九年)


作詞 工藤友恵
作曲 浜徳太郎

【一】
夕暮るる筑摩の森をそぞろ行く我が紅の顔を
若き生命のほこらひは染むる一入沈み行く夕日の映に

【二】
世の人の夢はかなくて秋風に夕べの鐘は厳かに
庭の蓬にふるゝれば尽きせぬ思ひ胸を充て輝く瞳

【三】
誠寮に窓もる光影あせて夜の衣は色暗き
そのころほひの一時を御空の北に仰ぐらん北斗の黙示

【四】
溢るゝか心の泉森の樹に夜半の囁き湧く水に
地の奥の声我が胸に育まれ行くあくがれの自然の二文字

【五】
明けの鐘なる白み出し峯見よアルプスの頂に
明けの光はなげ出でぬ千古の山にその雪よ明けの朝日よ

【六】
衰へぬ同胞の意気さめよとて鐘かきならす我が腕
国を慨けば沸く血潮あゝ新人の意気を見よ筑摩の森に

【七】
混沌よ二十世紀の二十年やがて出でなん日東の
新文明に黎明の光とならん戴くや我が旭見よ

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燃ゆる瞳(大正九年)


作詞 工藤友恵
作曲 市川信一

【一】
アルプスの空夕映えて 筑摩の森の悄には
若き小鳥の囀りも 聞きこそ深き木の下に

【二】
いこひに道を辿り行く 血潮は躍れ若人の
燃ゆる瞳の感激は 窓の燈漏る光

【三】
曠野の中にいかめしく 草生ふ野辺におごそかに
塵世をなみせ我寮に 夢円かなり百人の

【四】
真と善と美の 三つの星や通ふらむ
夢にも若き唇の 打ちほほえむよ何となく

【五】
都を去りて鄙なれば 花散り行きて秋なれば
夜の女神の闇なれば ああ平和なり我寮よ

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暁告ぐる(大正九年度)


作詞 工藤友恵
作曲 片山尚

【一】
暁告ぐる鐘の音に 森に小鳥の囀りて
秋夜の夢は破れたり よみがへれるよ我がいぶき

【二】
窓うちかかげ眺むれば 山なく樹なく森いづこ
塵寰遠く影もなく あゝ茫々の霧の海

【三】
白き潮のひけてくは 御空をかぎる峻嶺は
赤き光の輝きて 男性の美よその色よ

【四】
小草の露を踏みわけつ すすき河辺に朝の日
たぎる血潮にたきしめて 歌ふや男の子その調べ

【五】
紅の枝黄の梢 朝のいぶき森の辺に
小鳥の声はふるふ哉 思誠寮舎の朝なるよ

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中寮応援歌(大正九年度)


作詞 吉田実
作曲 片山尚

【一】
空行く雁の羽音にも 脾肉の嘆をかこちきぬ
飛べよ若人時到る 胡越の風を翼に切り

【二】
上る旭かがやける 血染の絹の旗の下
走せ集りし強者よ 南蛮北狄何かある

【三】
風なまぐさき草に泣き 虫声喞々鬼気迫る
剣戟削摩馬倒れ 木の葉と散りし胡越勢

【四】
光に消えぬ暗落ちる かがやきそめし燈に
あゝ凱旋の酒の宴 くむ甘酒は敵の血

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羽音も高き(大正十一年)


作詞 鈴木良徳
作曲 片山尚

【一】
羽音も高き雷鳥の群 山嶺近く一声啼けば
かしこの雪谿紫紺に染めて 未踏のアルプス朝日に映ゆる

【二】
斧鉞加へず猟人行かず 千古を語るうつ蒼の谿谷
萬里を走るか水ささやかず 両岸絶壁猿猴叫ぶ

【三】
人は知らずや五色の秋を 神は奏でん久遠の歌曲
夕陽赤く地平に近し 黄昏はやく静寂は迫る

【四】
白雪皚々天地を覆ひて 神秘の扉いま埋もれぬ
眠るかアルプス原始の霊峯 月影うすく熊群ほゆる

【五】
蟲惑の色は地球つつむも 光かゝげん混濁の世に
あしたの誓心に著るく わが高原の自治寮かたし

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冷霧飛来(大正十一年)


作詞 加藤信彦
作曲 浜徳太郎

【一】
冷霧飛来し虹誇る 峻嶺つづき雪映えて
筑摩の森の旭光 希望に燃ゆる若人は
無辺の大地踏みにじり 唯一筋に天涯へ

【二】
天●(●は風に炎)たけり岩躍り 天地おののき渦巻けど
戦禍の後の文明に 黎明の唱奏せむと
修業に勇む魂は 神秘の生命相照らす

【三】
聖境永く憧憬の 山川深くわけ入りし
試練は堅し若人よ 心の国に逍遥ひて
神のゆるしに意気高く 聖路を進め一筋に

【四】
経世の策胸にあり 治安の計は胸を見よ
よし混濁の世なりとも 魂曇る痴人も
自然の啓示仰ぎなば 聖者の光求めこん

【五】
臥龍の根三年の 血涙そゝぎ育てたる
自治の華香咲き競ふ 今日誠寮の記念祭
いざ歌ひ来よ諸人 自由の庭の団欒に

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我等は若し(大正十二年)


作詞 菅野陞
作曲 井出茂太教授

【一】
雲ぬくアルプの雄々しき姿 清和の光は虚空遙なり
詩魂を虚明に漂はせつつ 渾沌光なす世の埒越えて
いざ清く生きよ我等は若し

【二】
地を抜く県の雄々しき姿 のびゆく緑は蒼空遙なり
渾身に躍る赤裸の命 渾沌地に匍ふ世の埒破り
いざ清く生きよ我等は若し

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若き望み(大正十二年)


作詞 小嶋信雄
作曲 浜徳太郎

【一】
若き望の湧く毎に 躍れる胸をたぐへたる
森の梢の明らみて 朝こそ来たれ筑摩野に
甘美の満つる秋の陽や

【二】
大空渡る天つ日の 光を浴びてひなどりが
高鳴く声に霊ゆらぐ 榎の下の男の子等に
生命の詩の沢なれや

【三】
天地限るアルプスの 峯漸く暮れ行けば
静寂ぞ迫る高原の 青き霧降る中にして
思索の灯燃ゆるかな

【四】
湧きほとばしる水の音の 高まる夜半の静けさに
帳懸げて見上ぐれば 北にまたゝく極の星
無言の啓示談るかな

【五】
今日筑摩野の空すみて 連る山の鮮けく
潤める瞳に映ゆる時 聞け青春の祝歌を
我が誠寮の記念祭

【六】
そこはかとなく落る日の 残んのひかり消ゆる時
梢葉渡る涼風に いざ顧みん五年の
我等が霊の歩みをば

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静寂の大気(大正十二年)


作詞 金子克郎
作曲 宮坂準

【一】
黎明の光さし初めて アルプスの峯映ゆるとき
誠寮平和にみちあふれ 希望に燃ゆる若人が
今ぞ啓示を身にしめて 真理の道に舟出する

【二】
蟲惑の色をよそにして 榎葉かげに集ふとき
胸に高鳴る意気の流露 高原の地よ山の国
碧空高く雲かける これぞ我等ののぞみなれ

【三】
夕陽西に春きて 青磁に暮るゝアルプスは
自治の誠寮と並び立ち 生命の群そが中に
燈火赤くかゝげきて つとめのちまた我友よ

【四】
静寂の大気身にせまり 県の森に夜ふかく
遠き思索に耽るわれ 萬象は眠る静けさに
星かげ清く冴え渡り 三寮高くそそり立つ

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滔々迫る方今の(大正十三年)


作詞 芝春雄
作曲 宮坂準

【一】
滔々迫る方今の 文化の声は高けれど
究極未だ模糊として 右に堕せんか闇暗く
左に行けば道遠し

【二】
行擾乱の風潮に 痴人は迷ひ野にひそみ
凡俗こびてたはむれど 永劫の識る先人の
幽相積みて弥深し

【三】
絢爛の美は香へども 大地にうめく蒼生の声
伝ふる胸の乱調に 真理に趨る強者の
高き望を君知るや

【四】
県の森の下陰に 思誠の心行く処
青春の夢たゆやかに 先哲の道求めては
永き思ひにふける哉

【五】
さらば吾我等が佳き友よ 溢るゝ胸のときめきに
暮靄に煙を寂寥の 高原上に嘯きて
健児の意気を示さずや

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山もろともに(大正十三年)


作詞 多々良勝
作曲 浜徳太郎

【一】
山もろともにもえ出でて
燃け信州のしじまをば
我今山の声を聞く

【二】
沈黙に糧くむ泉には
溺るる若き猟人の
遙なる声君や聞く

【三】
聞け一閃に若人の
円舞にもゆるひとみには
ゆだねし生命誇りあり

【四】
ああ生命の大柱
空疎なるこゝ殿堂に
穹窿なきと歎けるぞ

【五】
見よ鉄蹄の山上に
山の心を擁しては
陽と共に踏む永劫の

【六】
来れ若人集ひては
巨人の像をきざまんや
我今山の声を聞く

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応援歌(大正十三年)


作詞 鈴木良徳
作曲 片山尚

【一】
青春の慨とばしる血潮 高鳴る腕輝く旭
神州の気に澄める松本 霊智の揺藍磨ける技倆

【二】
積雪の嶺われ等が試場 県の森影われらが牙城
攻むれば誇る城下の盟 守ればとどろく母校の凱歌

【三】
必勝の讃つづくる誉 蓋世の雄図不屈の意気地
今日の試練に送りし選手 これこそ我等の送りし選手
フレー
 フレー マツモト

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戦いの歌 県ヶ丘第一部(大正十三年)


戦いの歌の由来 序にかえて

 大正九年度初の混乱から遂に翌年度には、外部的な統制が行われた。それに打ちかって十一年四月から自治制がしかれた。然し寮にはまだ苦しむべき問題があった。自治はこの苦しみの刹那をとらえることなのである、自治を未来に期待するのは無意味なのだ。私は十二年度を思う━━それは矛盾の交錯であった。余りに過信した余りに魔酔的な行き方であった。日がたつに従って乱調子な病的な狂気になってしまった。そしてしまいには、弾力を失って無惨にも惰性にひきずられて行く。人々はよく歓喜といった。然し何処にそんな生やさしいものがあるか。又平和といった。然しそんな気紛れなものが何処に在るか。
 この陰惨な悪魔的な、そしてこのデオニゾス的なもの狂わしさには、それでも強い反抗があった。寮は果しも知れぬ戦の中に見出された。力は具体化された彼━━の心臓━━によって暴風のように戦い、彼は此の苦しみから免れようとしなかった。それ故にこそ青春は限りない悲痛であるそうだ。己は醜悪や耽溺、不善でも悪でも一切の矛盾を一つに包んだ苦しみの中に戦う強い心臓ではないか。戦いの続く限りは悲劇である。避け得ない悲劇なのである。その悲劇を貫いて我は戦の歌を歌う。

力は世々に新しく
人為の埓を亡ぼして行く
ああ 力よ 戦よ
巨濤の如く押し寄する嵐に乱る
我が心臓の 旗幟
戦の苦しみ我に何ぞ
あ死線 県ヶ丘

力は昨日もかくあった。今日もかくある。明日も亦かくの如くあるであろう。君よ、戦の一刹那をひしとだけ。刹那々々を貫き通した男にこそ「死はその一生を讃め夕はその一日を讃む。」重ねて言う。刹那に強く生きよと、×××「心臓の旗幟」を、誇張も形容もなく其のまゝ受取り得る人のみ、戦の歌を生命の続く限り繰り返し歌うであろう。

戦いの歌

作詞 仁井田陞
作曲 浜徳太郎

我は歌ふ青春の 哀調深き戦の歌
世々新たなる心と共に
人為の埓は亡ぼされ行く
あゝ力の姿 戦よ
巨濤の如く押し寄する
嵐に乱る一旒の 我が心臓の旗幟
栄光没落我に何ぞ
あゝ死戦に立つか県ヶ丘

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新たなる生の歌 県ヶ丘第二部(大正十四年)


作詞 仁井田陞
作曲 浜徳太郎

我が拓ける土に 我れ歌ふ
あゝ新たなる生の歌 森のうらら 雲ゆらら
聖なる山は我に囁き 原始の生命は 光に躍る
いざ歌へ 山人よ
生命のままに
新たなる生命のままに 歌へ歌へ県ヶ丘

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巨鷲の姿(大正十五年)


作詞 原真一
作曲 内野正作

アルプの静寂震はする
聞け!悲壮青春の歌
毒酒の酔夢虚名の栄光
塵世の風潮高けれど
永劫流るゝ生命を湛へ
暴風に向ふ巨鷲の姿
あゝ青春ただ力
思誠の光不断にかゝげ
いざや進まん高原寮

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春深ければ(昭和二年)


作詞 佐藤尚武
作曲 向後勉

【一】
山青くして巒気満ち 白雲みだりわくところ
男と生れし幸あらば 生きて自然の子とならむ

【二】
春深ければすずらんの 強き香りに酔ひてまし
秋白樺の落葉せば 若き心や傷むらむ

【三】
六尺の身に栄えありと 張り切る胸に若き日の
誇りにもゆる血のたぎる 牡鹿の如き生気あり

【四】
翼もたわに吹く中を 嵐を切りて一筋に
飛ぶ若鷲の雄々しさは 我にも似たる姿かな

【五】
蒼穹燃ゆる陽をかゝげ 花は真紅とひるがへる
ものみな若きうちにして 高く歌はん青春賦

【六】
あゝ山の端に沈む陽を 壮んなる日の黄昏と
みて語らずや青春の 復来るなき喜びを

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若き生命に昭和二年)


作詞 鹿志村保二
作曲 成沢英一

【一】
若き生命に栄ありと 生まれて茲に二四歳の
秋を寿ぐ記念祭 玉杯に盛る感激の
血潮は紅し火の如き 意気に燃ゆるか県森

【二】
県の森に風荒く 闇に流るる一抹の
殺気健児が胸を打つ あゝ憶はずや先人の
姿や悲壮八年の 昔の秋の戦を

【三】
雄々しからずや混沌の 海原遠く漕ぎ出でし
自由の児等の櫂の音 夫れ戦か殺戮か
行く手の闇は深くとも 我に不抜の劔あり

【四】
自由聖歌の寮の窓 流れて迫る混濁の
世に漂へる国民の 飢寒の声ぞ悲痛なれ
純情の児の胸の血に 聞きて如何でか沸かざらむ

【五】
闇を呪へる同胞の 頬に流るゝ血涙を
拭ひて理想憧憬の 神の楽土の建設に
高く真理の灯を掲げ 進むぞ我等が姿なれ

【六】
嗚呼月廻り星移り 壁に残れる先人の
熱血の文字も黒みたり しかはあれども誠寮の
意気永劫に若くし 感激の火はいや紅し

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松高小曲


作詞 御塚杜夫
作曲 古川晴男

【一】
東や鉢伏 西や常念の 朝日夕日に
はえる松高の やさすがた
(囃詞)キマショシンシュノユキグニヘ サムケリャコタツガアルダンネ

【二】
松高ちょいと出りゃ 西山が見える 空の茜に
槍岳の穂先が 冴え冴えと
(囃詞)

【三】
山が晴れてくりゃ 心もはれる 雲がかゝれば
松高さみしや 森のかげ
(囃詞)

【四】
雪の超人 アルプスでさへ 思ひたかまりゃ
燃えて火を吐く 焼が岳
(囃詞)

【五】
信州名物 松高に生絲 一茶象山
山に温泉 蕎麦の花
(囃詞)

【六】
県明神さま 荒神さま 松高いさめる
とても陽気な 守り神
(囃詞)

【七】
松高若人 勝気がつよい つよいはずだよ
県明神さま 後ろだて
(囃詞)

【八】
春の駅伝 さらりと勝って 一つ頑ばりゃ
秋の対類 銀の楯
(囃詞)

【九】
縄手まはって 夜道をかへりゃ 寮の燈影か
ついと消えたは 流れ星
(囃詞)

【十】
松高魂 きかれたならば 真実きがれぬ
雪の白線 二本筋
(囃詞)

【十一】
寮で一年 下宿で二年 後は都へ
山の桜か ちりぢりに
(囃詞)

【十二】
松高去る時や 誰が泣いてくれる 県の森の
森の鳥が 泣いてくれる
(囃詞)

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誠寮節「自由の光」


作詞 隅元国夫
作曲 古川晴男

【一】
信州雪国 男子の国か 西も東もチョイト雪山ばかり
力山抜く 俺等の意気に 浅間山の煙もホイコリャホイノホイ薄くなる アア薄くなる
シンシュヤマグニユキアサフンデ ヤリホタカモフンヤブレ(以下囃言葉同じ)

【二】
昔偲ぶか深志の城よ 大和心を見ろ天守閣
俺等唄ふは若さの誇り 長い歴史が慕はしい

【三】
浅間山だよ 益荒男の心 人は絶えても思ひは絶えぬ
県森さへ梢の寂れ 今年十年の秋に会ふ

【四】
十の史葉を重ねた寮に 自治の燈挑げて八年を経るか
苦闘の末に我が獲し宝 見ろ先人の血涙を

【五】
起きて自治の城 守りの男子 創業やすく守城は難し
何故に思誠の自由の光 汚れぬ寮の名をあげぬ

【六】
松高白線 汚れはせぬぞ 人は変るも誇りはうせぬ
つけた二本は亜細亜の東 芙蓉が峰の白雪か

【七】
見ろ森影に 集へる男子 名残尽きずも三年たてば
梢の鷲と俺等の友は 何処の都へ飛ぶのやら

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あゝ春の宵(昭和三年)


作詞 松林茂
作曲 大山琢三

【一】
嗚呼春の宵更け行くか 宴の莚花の影
燈火近く狂ひ散る 花の吹雪にさまよへば
人生遂に不可解と うら若き日のなやみをば
静かに友と語りては なげき尽きせぬ涙あり

【二】
筑摩の森の蔭行けば 黒雲早き穹窿の
雲間に照れる白鳥よ 光の翅仰ぎつゝ
県ヶ丘の夏草に 久遠の理想語らずや

【三】
時は移りて人逝けど 変わらぬ真理探究に
ともしびかゝげて文読めば 深き懐疑の淋しさに
見よアルペンは燦然と 人生の道を示しつゝ
不壊の命に白き嶺は 黙示聞けとてそゝり立つ

【四】
吹くか朔風丘の上に 壮麗の星瞬きて
雪の高原更け行けば 啓示の光流れ来ぬ
榾の火赤く燃ゆるとき 流転の世相語りては

【五】
見よ東方に光あり 希望のかげか東山
嗚呼友来れ仰ぎなん 今ぞ県ヶ森かげに
八年の春秋流れ来て 又廻り来ぬ記念祭
今日祝盃の美酒は 伸び行く松の緑酒なり

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昭和維新に(昭和四年)


作詞 宮本光平
作曲 古川晴男

【一】
緑色濃き松陰に 健児集ひてはや八年
世は新生の雲はれて 昭和の光仰ぐかな
知るや我等が立つところ 藍紫に霞む聖天地

【二】
見よ信州に育ちゆく 木曽天竜や信濃川
たぎり落ち行く大洋は ひろき希望の世界かな
さればはるけき一路にと 流れたゆまぬその姿

【三】
聞け激湍の巌に立ち 彼等が瞑想と抱負とを
行手は狂濤荒き海 ひろき試練の世界かな
されば自然の懐に しばし力を養はむ

【四】
あゝ清らかな 揺籃に しばしは宿る若き子よ
我等を待てる世の相は 大地の男の子を欲さずや
昭和維新の若人よ 将来の力培はむ

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新生の歌(昭和四年)


作詞 小嶋清
作曲 大山琢三

【一】
真理の灯希望の光 清けき永久の泉汲まんと
県ヶ森に相よりし 多感の遊子
狂瀾さかまく濁世に 拡げん翼憩はせて
聖なる光明のさす岡に しばし力を養はん

【二】
流転の定め 浮世の姿 長き旅路のはかなさ思ひ
人生迷路に行きくれし 多感の遊子
あゝ青春の瞬間も 逝かば帰らむ何時の日
されば岡辺に集ひして そのひと時を歌ひなん

【三】
混沌の闇 桃源の夢 久遠の理想に憧憬れつゝも
去就の岐路に踏み迷ふ 多感の遊子
五彩色なすアルプスの その黎明の雪の峰
神秘に暮るゝ高原の 北斗の黙示仰がずや

【四】
青春の栄光 不滅の力 生くる日の幸求めんものと
悩みの底ゆ萠え出づる 多感の遊子
万象深く眠る時 宇宙の言葉に聴き入らむ
瞑想大地に額づきて 「新生」の叫び上げんか

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第九回記念祭寮歌(昭和四年)


作詞 児玉太郎
作曲 松室雄二郎

【一】
見よ駘蕩の風薫る 県ヶ丘に草萠えて
慈光天地を包むとき 若き血潮の燃ゆるまゝ
諸手翳して叫ばなん おゝ向上の朝日影

【二】
筑摩の森の夕には 思想はまさる深緑
樹影に湧くや生の歌 我が憧憬るゝアルペンの
峻峯並ぶ霊容を 望み瞳ぞ輝きぬ

【三】
●(●はてへんに寮)乱秋の色闌けて しばしの旅寝共にせん
わが高原の窓深み 揺落風は荒ぶとも
高く翔くるや自由の鷲 悲壮の凱歌奏でつゝ

【四】
世は混沌の闇なれど 真理を尋ぬる窓の外に
瞬く星を仰ぎみよ 溢るゝ生気抱きつゝ
永久の黙示をきけるこそ 高原寮の姿なれ

【五】
嗚呼紅の県森 自治n燈火揺めきて
今日九秋の記念祭 そは偸安の夢醒ます
若き生命の感激の 希望と栄光の象徴かな

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第十周年記念祭寮歌(昭和五年)


作詞 金井勝彦
作曲 石渡駿一

【一】
濁流遠く外にして 万嶽競ふ高原に
天地緑にもゆる時 鈴蘭の香りを懐しみ
人生の春に佇めば 我等が胸は躍るなり

【二】
荒む吹雪の冬の夜に ゆるがぬ山の姿見よ
灼熱肌やく夏の日も 千古の雪は輝きぬ
偉なる自然に親しみて 生の力を賛美せん

【三】
筑摩の森の秋の夕 蒼穹高く轟くは
今日十年を迎へたる 誠寮百余の健児等が
先人の功称へんと 歌ふ歓呼の響なり

【四】
嗚呼アルペンの峯仰ぎ 県が森の丈夫が
文武の道を励みつゝ 久遠の理想求めんと
向上の途に鞭うたば 若駒空に疾駆せん

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「若人は誠を愛づる」の歌


作詞 北嶋正之
作曲 浜徳太郎

【一】
若人は誠を愛づる性持てり 春駘蕩とアルプ晴れ
県の森の下萠えに 遊子の声は希望あり
求真の心たまゆらも 赤くたぎりし血をばもて
永遠に清めてやまざるを 黒きに染みし生活は
道にむれなす妖男も 神にもまがふ若人を
踊らす笛は持たざるを

【二】
若人は誠を愛づる性持てり 秋蕭條と草は枯れ
県が森の三寮に 若き声のみ冴ゆるかな
現の世こそ澆季にて ありての人は盲目なり
腸を焼く美酒の 味は知れどもはかなきを
誠は捨てゝ数ならず 不汚血は神のものなれば
神のたのむは我等なるを

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噫鷲の飛ぶ


作詞 朝倉保平
作曲 柴田誠爾

【一】
静寂の夜の帷の アルプの峯に明け行けば
雲紅に輝きて 暁の鐘響くとき
山霊今ぞ厳かに その雄姿を現はせり

【二】
されど人世の黎明は 光に歌ふ子はあれど
歓楽の夢さめずして 濁世の稠人昏々と
高楼深く眠りゐて 今ぞ明けむとせざるなり

【三】
噫鷲の飛ぶ高原の 此の三寮に春来り
爛漫花の香ふ時 平和の偽光に迷ふなく
かの青春の栄年を以て 宇宙とを照せかし

【四】
誠寮生れて十一の 秋を寿ぐこの宴
県の森に洩る灯影 集ひて歌ふ友と友
その感激の涙こそ 我が誇なり命なり

【五】
我逍遙の黄昏に 寮庭霜の白き時
歩をとめて友は云ふ 多岐を嘆ずる事なかれ
山の黙示を身に秘めて 人世大道を進まなん

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黎明以前


作詞 相沢武雄
作曲 井出茂太教諭

【一】
眇々漂霧の宇宙に浮ぶ 大地の徐々たるめぐりより
花より明くる極東の春は泉の湧躍より
万物声有り大地の微笑

【二】
青雲雪肌の崇厳のアルプ 歓喜に揺ぎて輝けば
白華洗ふ霊水の末は県の森かげに
青春燃え出づ紅顔の夢

【三】
落陽越来る桃李の花か 旋風逆巻くアジアの嵐
矛盾を呪ふ時代の魔流県の森も今何処
万物声無く大地の嗤笑

【四】
荒涼霜置く枯野の果に 彷徨府仰の遊子有り
生きる悲哀にむせぶとき刈雁消ゆる地平線
洛陽飢ゑて影長し

【五】
久遠も彼方に流転の大地
昨日の嵐は今日のはれ人生行路君知るや
虚名の群の舞踏場 黎明以前の世は暗し

【六】
露けききぬに浅茅を行けば
筑摩の森辺に残月かゝり迷へる心帰依を知り
峰の黒松暁く映え 黎明やがて近からん

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誠寮哀頌(昭和七年)


作詞 後藤茂
作曲 井出茂太

【一】
嗚呼若き日の悲しみよ 矛盾に悩む若人が
濁世の潮呪ひつつ 遠き清光を恋ふる時
足音もなく忍びよる 黒き憂ひの影一葉

【二】
夜は三寮に黄昏れて 揺落の秋更けゆけば
星影淡き高楼に 若き歎きの丈夫が
はかなく過す三春の 思ひ何処を迷ふらむ

【三】
傷心の身に深みゆく 秋の哀れの淋しさよ
何故とも知れぬ憂愁の頬にみだるる村時雨
強き黙示の慰めを 求めて今宵十二歳

【四】
嗚呼夢の間に去りゆくか 若き宴の花筵
汲む玉杯の滴りの 消えゆく跡を慕ひつつ
筑摩の森泣遙へば 落葉に冬の影暗し

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誠陰行(昭和八年)


作詞 金井塚熊吉
作曲 折原量手

【一】
筑摩の野辺に春浅く 快楽に酔へる若人が
狂乱騒ぐ若き血の 力の緒琴こだまして
讃春高き自治の歌

【二】
青葉木陰に杖止めて おごりの夢のさむる時
想に迷ふ若鳥が 荒ぶる胸にうそぶけば
光なき世に正気あり

【三】
咲き乱れたる秋草や 栄枯を語る虫の音に
王者の昔偲べども 今太平の夢長く
嗚呼武士道の亡びゆく

【四】
山脈寒し星月夜 月三寮にかゝるとき
深き憂に沈む児が 樹氷の陰に佇めば
雪ちりかゝる旅衣

【五】
思誠にもるゝ灯火に 千とせの春をちかひけん
同じ心の若人が 栄華の夢をさまさんと
古城につくや自治の鐘

【六】
さらばや友よいざ汲まん 十三年の秋の宵
酔うて袂の歌草を うら若き日の玉杯に
祝ふやうれし記念祭

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東天あくる(東京帝国大学寄贈歌)


作詞 八木健次
作曲 結城康雄

【一】
東天あくる崑崙の 紅映ゆる雲破り
孤鷲颯たり風に御し 若き生命を唱ふなり

【二】
燦爛亜細亜に黎明す 光は常に東より
世界をつつむ暗黒に 今新しき啓示あり

【三】
蜿蛇萬里の長城に 青史は語る五千載
胡馬朔風にいななきて 烈日めぐる大虚空

【四】
南嶺雲は低くして 巴燭の水は濁るとも
北斗爛然空に在り 野に在る賢哲何想ふ

【五】
胡笛瞭喨野を渡り 薄暮さまよう陰山下
乾坤賭し俊傑の 覇図の昔を偲ぶかな

【六】
嗚呼ヒマラヤの山霊は 久遠の真理黙示して
ガンガ河畔に聖火燃え 私哲生あり菩提樹下

【七】
イラン古城に陽は沈み 銀漢千里空を馳す
廣野に遺る巨人像 遊子煢たり草に伏す

【八】
アラブの沙濤渺として 粛夜流彗地に墜つる
星に折れる白衣の徒 劔か教かコーランよ

【九】
七つの洋に今君臨む 黒潮むせぶ太平洋
図南の翼雄くして 今日の船出に羽搏かん

【十】
亜細亜は聖郷永久に 独立自由のはいの下
断てよ放てよその鉄鎖紫雲の夢を揺る

【十一】
天に二日は容るなく 塗に餓ようの徒あるなし
遺賢は出づるその草廬 王者の政を尋ねなん

【十二】
我れ武蔵野に佇みて 県陵生誕十三の
齢遙かに寿ほがん 空行く雁よ伝へかし

【十三】
高原信州秋酣けて 月に明るきアルペンよ
友よその酒杯とり交し 今宵唱はん青春歌

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深志城下に(昭和八年)


作詞 山田久
作曲 今村まさる

【一】
古のもののふどもが競へるあたり
千古の雪を戴けるアルプの峯の連るあたり
若き男の子のつどふ誠寮

【二】
白人に虐げられし亜細亜の民を
正義人道によりてたつ我が日の本を負ひて立つ子
集ひ散じて早十三年

【三】
窓に倚りつとめし男の子はうつり変れど
思ひは等し信濃なる山の霊気に将来を頼める
我れと我が身を磨かんとする

【四】
陽炎の春は桜の花蔭にして
秋は北斗を眺めつつ国を思ふて腕を抑す
若人の意気知る人ぞ誰れ

【五】
夏なれば西に連るアルプの峯に
冬木枯に飛びちがい渦巻き狂ふ吹雪の中に
いでや鍛へん我が身と心

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高原の黙示(昭和九年)


作詞 大塚辰彦
作曲 折原量平

【一】
筑摩の森の御空に高く 輝く白きあゝあの明星は
青春の意気常に尽くることなき 我等の遠き清き理想を
思はするかな いざいざ友よ 清く進まん高き星へと

【二】
雲間に永久の雪を戴く 強く厳たるアルプの山よ
なれば吾等の熱と力の 強き正義を強き信念を
象はするかな いざいざ友よ 強く進まんアルプの如く

【三】
県の野辺に楚々として立つ あはれ真白き白樺の木よ
なれの気高き澄める姿は 我等が強き胸に秘むる
純情の如し いざいざ友よ 真く進まん白樺のごと

【四】
世界の危機を人は叫べど その人無き世は暗に等しく
思誠の寮に集ふ若人 我等が進む時は来れり
理想と正義純情によりて ああ友立たむ我等の使命

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筑摩野(昭和九年)


作詞 積田保治
作曲 駒井邦雄

【一】
ああ誠寮 再興の秋
世紀のなやみ 波邪の劔
利己主義に生くる同胞を
斬りて立たん 県ヶ丘

【二】
つどへ 自治の灯に
再度玉杯をっさげ持ち
情熱にみてる腕もて
乗り越えん哉 時代の潮流

【三】
嗚呼今宵
静寂破りて筑摩野に
健児のさけび起るなり

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憂誠寮(昭和十年)


作詞 大川恵司
作曲 山田久

【一】
県が丘に風立ちて 自治の燈火に覚めてより
はや十五年流れけり 栄華の夢も古び来て
世の風潮は荒狂ひ 我等が域に達したる
さあれ皆人真もて 起ちて守らん我が古城

【二】
見よアルペンに雲かかり 昔を偲ぶ清爽や
時代の波に棹せど 歓楽の夢覚め来り
濁世の怒濤蹴破りて 我等が興たん時来る
さはれ皆人真もて 集ひ守らん我が古城

【三】
薄川原に彷徨へば 山薄れ行く夕暗に
ああ思ひなす見よ誠寮の 行手に迫る暗澹や
自治の木蔭の礎を 憂ふる者や何人か
さあれ皆人真もて 来り守らん我が古城

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嗚呼自治の牙城(昭和十一年)


作詞 小川英次
作曲 藤沢俊雄

【一】
県ヶ丘の誠寮に 集ふ健児の脳裡にも
押し寄せ来る時代の濤 人は平和を叫べども
人は正義を叫べども 壊敗に委ぬ自治の牙城
誰か語りて苦悩まんか 聖火は過ぐる十六年

【二】
自治の掲げし誠寮に 集ふ健児の眼にも
表はれ来る衰微の兆 社会は粉乱を示せども
社会は虚無を示せども 防禦ぐ術なき自治の牙城
誰か語りて努めんか 聖火は過ぐる十六年

【三】
岳都に立てる誠寮に 集ふ健児の希望にも
迫りて来る暗黒の夜 時代は恐怖を孕めども
時代は虚妄を孕めども 悲嘆く者なき自治の牙城
誰か光明を求めんか 聖火は過ぐる十六年

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誠寮賛歌(昭和十年)


作詞 雨宮恒之
作曲 駒井邦雄

【一】
世は混沌の雲低く 驕奢の風潮に沈むとき
毅然    清き理想に進むもの
思誠寮   讃へんかな その名

【二】
春駘蕩の花霞 安き惰眠に耽る児に
凜乎     覚醒の警鐘を鳴らすもの
思誠寮    讃へんかな その名

【三】
秋校庭に落葉して 若き感傷に迷ふ児を
莞爾     裕き胸もて抱くもの
思誠寮    讃へんかな その名

【四】
希望遙けき若人の 自治の灯燃えて十五年
悠々     久遠の伝統に生くるもの
思誠寮    讃へんかな その名

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自由賛歌(昭和十二年)


作詞 中川英夫
作曲 藤沢俊雄

【一】
時の流れに棹さして 自由を求む若人が
残雪淡き筑摩野に 炬火を点じて十七年
炬火を点じて十七年

【二】
幾山河のかなたより 文化の花の咲き誇る
県ヶ丘に集ひ来て 真理を究む胸と胸
真理を究む胸と胸

【三】
三年の夢よ青春の 時はふたたび還るまじ
いざ汲まんかな諸共に 生命を讃ふ美酒の杯
生命を讃ふ美酒の杯

【四】
哀れ自由の地におちて 秋蕭條の風吹けば
想へ若人その昔の 炬火の啗のかがやきを
炬火の啗のかがやきを

【五】
アルプの遠き嶺に 白雪燦とかがやけば
世の混濁を救はんと 思誠を誓う十字軍
思誠を誓う十字軍

【六】
自由よ夢よ青春の 熱と血潮にもえたちて
彼岸の理想遠くとも 我等進まむ諸共に
我等進まむ諸共に

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友よアルプの(先輩寄贈歌)(昭和十四年)


作詞 金井勝彦
作曲 宮内裕

【一】
友よアルプの頂に 登りてみよや紫に
連なる山の空遠く 明けゆくアジアの黎明を

【二】
黒雲こめし天地を 拭ひし紅き血潮をば
想はば健児胸深く 祖国の聖を刻まんや

【三】
夢また夢に耽りたる 国民の急救ひしは
県ヶ森に集ひ来て 巣立ちし鷹の羽音ぞや

【四】
今日感激の記念祭 暫し許せよ杯を
黄金の酒に照る月に 蚊龍の姿君みずや

【五】
嗚呼暁はきたるけど 風尚荒し西東
若駒にむちふりあてて 途一直を進みなん

【六】
x友よアルプの頂きを 望みて努め青春三年
真白き峯の雪にこそ 久遠の理想求めつつ

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新生の光(昭和十五年)


作詞 高山信吾
作曲 矢嶋文人

【一】
天地渺茫悠久の 時空の怒濤下にみる
大志燃えたる若人が 治安に眠る庶人に
黎明告ぐる時ぞ今

【二】
夕日映ゆるアルペンに 朝日直射す筑摩野に
経世の志培ひて 委ねられたる歴史をば
果さんものぞ我等なる

【三】
碧光千里天翔ける 巨鷲の行く手仰ぎ見て
若き血潮の情熱に 世紀の嵐のり切って
彼方に望む我が理想

【四】
東雲明くる渾沌 新生の光掲げなし
二十の齢祝ひつつ ああ清浄の高原に
臥龍起つべき時ぞ今

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空虚なる(昭和十六年)

作詞 田中早苗
作曲 石岡茂男

【一】追憶(おもいで)
空虚なる心抱きて 茨ふみ若き男児は
あけくれに真理慕ひぬ 清らかなる誇にあふれ
豊なる収穫求めつ 緑なす森に来りぬ

【二】饗宴(うたげ)
高原に秋の来りて 感激の記念祭迎へぬ
かはたれぬ県の野辺の 祝篝火は榎葉に映え
汲み交す美酒の杯に 若き児の頬は輝きぬ

茨なる人世の旅路に 行き会へる我が友どちよ
三寮の栄光祝いつつ 伝統し誠讃へて
いざ今宵謳ひ明かさん 二十一の記念の秋を

【三】門出
青葉なす県の森の 下蔭に時代の苦悩
若き児はいたみは言はじ 温き友の情に
結ばれて我等進まん ひたぶるに真理の道を

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朝開き歌(昭和十七年)

作詞 大蔵敏彦
作曲 森口兼二

【一】
えんえんの赤き太陽沈み、アルペンにほのぐらきかも
訪れぬ園光の聖き
美はしの薔薇の園にさまよひし夢こそ見えしか
狭霧たつ天空にかけゆく、まなかひにフェニックスの姿は

【二】
わくらばの散りそめにけん、県もり榎の葉うら
うらがへる秋の氷雨よ
うつせみの醜きさがに、たむかひし真実あはれ
感傷に心ふるふか、若き児のかたみにそそぐ涙こそ

【三】
みすずかる信濃の原ゆ、晴れとほる天空をかぎりへ
山脈の峰のかげさやか
時つ世に直にまじらふ、はらからよ 若人よわ
二十二の今宵あかして歌はんか 朝開き歌善く

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光を呼ばん(昭和十九年)

作詞 林三平
作曲 田中淳

【一】
県ヶ森雲低迷にどよもして 人の子あはれ乱れ舞ふ
土ひぢ固く生くすべ知らず 今戦ぞ汝が胸にあり

【二】
さあれ吾れ女鳥羽の原に泉なす生命を掬みてひたむきに
濁れる世にぞ生き抜かん 清き瞳ぞ汝が友なる

【三】
雲高く舞ひ昇る峯ゆるがしき 誰が道行くや剣磨し
岩を砕けと月影に踏み立ち行かん 言の葉は呑み

【四】
わななける幾山河の国貫抜き 死に絶ゆるとも汝が魂ぞ
雄叫べよ友よとよみ昂げ 戦ひとらんまこと一すぢ

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遠征(昭和十九年)

作詞 上條彰次
作曲 田中淳

【一】
帰り来ぬ雲影遙か 篝火に白露光りぬ
恋のみの憂ひの瞳 再びを遇う日なからむ
高原に月ぞ砕け 競い立つ生命照らせり

【二】
星一つ瞬き落ちて 国内翳哀れ濃きてふ
貧しとも寂けき祈り 秋空に幽か捧げむ
ひひと鳴る県ヶ森 奔々と血潮激りぬ

【三】
没落のすべなき流れ 憂き心友よ聞けかし
天地のいつはり堪へて 仮初を燃やし尽すか
皇辺に生きよ男の子 漂泊の明き灯

【四】
水篶刈る信濃の空に 若き日の真実もとめし
今はしも万里の天に 啗なす運命描けや
遠征の空ゆ果て 魂と呼ぶは君が名

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山に微笑む(山脈)(昭和二十年)

作詞 峰間 清美
作曲 千野寛

【一】
赤土のくづるゝ夕べ 信濃路を一人行くなり
雲高く高原めぐる かそけき力よ
とこ永遠に歩まざらめや

【二】
斑らなる峠の雪を かえりみる瞳しづけし
宿命のうるはしきかな とゝのふ相よ
現し世の影は滅びず

【三】
愁ひのみはるか 続けど 平安の日を祈りつつ
眠りけんいにしへ人よ 善き人々よ
逞ましく生き行く情

【四】
落日の山脈あれて 大いなる只大いなる
憧れに吾よみがへる あゝ吾が友よ
真実ありひしと抱かん

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誠寮懐古(秋の歌)(昭和二十一年)


作詞 佐藤芳雄
作曲 神田寿夫

【一】
信濃路はるか旅人の
 瞳も濡れて帰り来ぬ
古城の苑の秋の日に
 悲哀はふかく流れたり
あゝ三春は豊けくぞ
 涙はらいて笑みゆかん

【二】
更たけて男の子は寝ねず
 秋の灯に
物の影すら更たけて
 凍しきものを二十六の
饗宴は更けて火炎濃く
 白光凄し 裸形の男の子

【三】
たゝら踏め
 玉杯胸に捧ぐれば
今宵の秋の貧しけど
 吾こそゆかし貧しけど
吾の生命ぞ愛しける
 内深くこそ潜みて行かな
 内深くこそ潜みて行かな

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逍遥歌(昭和二十七年)


作詞 中殿●(●は日に見)英
作曲 同上

【一】
雪崩を越えてアルペンの 尾根ゆく駒の瞳より
希望の星を訪へば すみれの色も映ひぬ

【二】
桜吹雪のすゝき川 岸にたゆとう小波に
歴史は長く憧れの 飛礫に明日は見ずや君

【三】
そぞろ歩きのたそがれて りんごの白き花影に
濁れる酒をあふるてふ 詩人の恋いまいずこ

【四】
友の情の綾なせば 思誠の祈り一筋に
歌声生れて青春を 県ヶ森に捨つる哉

【五】
没落の旅踏みにじり 若き生命の競へれば
ヒマラヤ杉に名を添へて 巣立つ燕も愁ひけり

【六】
しじまに昼の陽は淡く 氷久に尽きせぬ回想は
浅間の温泉湧くほとり 松の嵐にむせぶとや

【七】
運命のきずな操りて 女鳥羽の月にささめけば
はかなき夢の宿りせむ 雲はみだれて泣くものを

【八】
黄金の鳩を放ちては 踊る篝火揺らぐ窓
時の流れに突く鐘を また聞くべしや記念祭

【九】
「秋高原」の別れにも 契りの太鼓轟きて
旅果てしなき人の世に 紅葉の錦羽織らなむ

【十】
美ヶ原夕焼けて 峰の初雪仰ぐとき
鳥はねぐらへ急げども 木霊は帰るすべもなし

【十一】
愛しき面影浮彫りの 永を行きを埋火を
都と誇れ駒草の かざしは岩に育つとも

【十二】
濠を廻ればうち煙る 風の中ゆく影法師
空の調も厳かに 松本城の朝ぼらけ

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応援歌


 この歌は松高時代類別(文甲、文乙、理甲、理乙)の運動会があ
り、理甲群の間に自然発生的に生れたもので、純粋な寮歌とは違う
かも知れませんが、一応ここに収録致しました。作詞者の大川内陸
彦さんは過ぐる大戦の折犠牲者となられたそうです。尚二番、三番
の歌詞もあったそうですが、失念されたそうで、誰か志のある人が
改めて楽譜に合わせて咲くししてもらえたら幸甚、との由、作曲者
藤沢俊雄先輩よりたよりがありましたので記しておきます。

ホームページ掲載にあたり:
原典では平仮名及び片仮名のみで歌詞が記されておりましたので、
原典に従い片仮名及び平仮名で記しました。

作詞 故 大河内陸彦
作曲   藤沢俊雄

アルプのふもと くさもゆる
こおげんそらは はれわたり
ときいまごがつ わこどの
たかなるちしお みなぎるちから

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希望(昭和十一年)

作詞 御室担
作曲 作曲者不明

緑色濃き草原に
高く聳ゆるアルペンを
見上る空や夕映に
輝く聖殿我等が誠寮
げに青春の血潮はさかまきて
我等が行く手は遙かなり
嗚呼希望なる哉希望なる哉
行路は難く遮れど
いざや進まん希望もて
いざや進まん力もて
待たん哉栄の日輝く日

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山に明けては(昭和十二年)

作詞 唐木邦雄
作曲 小穴秀三

【一】
山にあけては山に暮る 此の高原に秋闌けて
夢をいざなふ森蔭に  ああ誠寮の自治の鐘

【二】
あした旭の花咲けば  橄欖の木かり抱き
崇高き使命果さんと  芸文の道ひたすすむ

【三】
狭霧にそぼる杜の奥  山の霊気につつまれて
思念の心おごそかに  瞑々然に祈るなり

【四】
白雲の去来も心無や  白樺のかげの草しげみ
多感の身をば横たへて 白日の夢を追ひてゆく

【五】
残照はるかなつかしみ 県ヶ丘を彷徨ひて
深き郷愁に悲しめば  明るき星の生れいでぬ

【六】
銀漢空にきらめきて  嘯き出づるかりがねに
若人哀愁深くして   美唱ひつつ奏づなり

【七】
烈々もゆるかがり火に 乱舞宴の感激に
かたみに抱き涙もて  今やちぎらん友情かな

【八】
十七秋の記念祭    美酒の玉杯くみかはし
賛歌高く木霊して   いざや讃えん思誠寮

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杜の栄光(昭和十三年)

作詞 唐木邦雄
作曲 本間秀夫

【一】
眼もはろばろと嶺に黎明の光はほのぼのと
かぎろひわたりかぐはしき 緑に澄める筑摩野に
偸安の夢駭かし 時代新生の暁の鐘

【二】
見よ紺碧の大空に 下界の夢を蹴破りて
羽音も高く翊りゆく 光眩ゆき巨鷲の
翼かざせし姿こそ 自由剛健わが象徴

【三】
輝く大地草く 競ひの場に渾身の
意気と力の迸り 勝利をうたふ血の響
かたみ抱き 泪する 若き日高く讃へんか

【四】
山脈とほく日は落ちて 夕靄深く単むるとき
懐疑は湧きて憂みち 世俗の塵をよそにして
真理の扉叩きつつ 灯あかく今ともす

【五】
乱雲暗き大陸に 思を馳する憂国の
血潮の胸に高鳴りて いざや期待んか明日の日を
光は来る東より 若き日本に力あり

【六】
生誕ここに十八年 夢安らけき青春の
思ひ出多き自治の城 美き響宴の炬火は燃へて
明き寒気充ち溢れ 永遠に謳歌はむ杜の栄光

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雪の筑摩野(昭和十四年)

作詞 宋範儀
作曲 柏木直

【一】
東雪の筑摩野に 肩敷き佗びぬ狭席や
西情景の空遠み 懐疑に満ちるむらぎもの
心の姿捕り難く 打伏し寄する黄昏の
黒き瞳は身に沁みぬ

【二】
秋空碧天雄叫びの 造りの神の隆動よ
歳月の死葬所白々と 雪のアルプに朝来れば
静寂を染むる茜色 身に滾り立つ情熱の
天駆り行く其の化身

【三】
時雨轟く白樺の 閲みしし年月筑摩森
ふりさけ見れば真白にぞ 牝獅子が肩の王ヶ鼻
嗚呼! 生業の豊けくぞ 緑の園よ城山よ
憧憬・瞳・わが双手

【四】
時世乱脈の風潮に 破れし刺叭の音も無し
来る日希望の炬火さへも 地に墜ち挑く人もなし
さあれ真理の地にありて 永劫湛ふ自然の啓示
永劫湛ふ自然の啓示

【五】
長江・西欧風荒れて 黒雲逆巻く世の相
皆遙かに遠方の 空をし見れば心荒れ
あはれ邪正の剣をば 心に刻み太陽の下に
いざ駆り行かん誠寮児

【六】
生誕茲に十九年 夢遙かなる青春の
血潮の寝床安らけく 胸の繁吹深紅く浴び
永遠に掴めぬ幻と いざや謳歌はん若人の
歓喜・力・ああ誠寮

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春撩乱(昭和十四年)

【一】
春撩乱の高原に にほひし花はうつろひて
集へる若き男の児らが 憂愁の影を宿すとき
生命のめばえ萠えそめぬ

【二】
山脈蒼く澄める宵 刹邪の快楽に迷ひつつ
矛盾懐疑に迷ひつつ 真理をしたひ悩む児に
悲壮の思ひ身にはしむ

【三】
秋風寒き寮の灯に 文よむ児らにおごそかに
時代の鐘なり混濁の 俗世を導かむ我が責務
胸の血潮は高なりぬ

【四】
星影さやか雪の野に 冴えて聖けき自治の寮
十九の齢を祝ふ宵 くまむ別れの杯を
あつき情の美酒を

【五】
征手は遠く荊蕀に うもれし道ぞ雄々しくも
行かん彼方にあかあかと 誠の光見ずや君
誠の光見ずや君

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思誠賦(昭和十八年)

作詞 羽田邦彦
作曲 太田和夫

【一】
ああ東海の君主国 武士の道血に●(穴冠に子)けて
万岳の霊気嘯けば 県森に集へる益良雄に
烈々の気はたぎり来て 三寮の意気燃ゆる哉

【二】
筑摩の野辺に秋酣けて 雪遙かなる山脈に
護国の血潮迸りて 濃き紅に燃ゆるとも
世に偸安の夢深く 八州の正義影暗し

【三】
草露にすだく虫の声 銀漢空に高き夜半
祖国の安危思ふ時 熱涙たぎる憂情に
抜き放ちたる腰間の 剣に冴める月の色

【四】
見よこの寮に男児等が 思誠の基建てしより
歴史は遷り二十三 今ぞ正義に興さむと
決然たてる若人の 出陣の声は天に充つ

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若き力に

作詞 当間稔
作曲 木下知行

【一】
若き児よ今起つか 心のまことひしと抱き
生ひ立ちし若き白樺 まぼろしは強く振り捨て
剣とり出で立つ我等 陽はおどり血はたぎる
今ぞ起て運命のきずな 戦の歌に呼ぶかな

【二】
邂逅に相見し 面影忘れざらめや
空を行く希望の流れ ああ友よ命は知らず
なべて今胸に抱きて 微笑めよ仰ぎ見よ
秋たけし信濃の空に 王ヶ鼻紅に映ゆ

【三】
見はるかす高峯の群 行き行きて倒れ伏すとも
踏み破る誠ぞあらん 涙さへ祖国に捧げて
夕やみの県ヶ丘に いだ歌へいざ舞へや
やみ難き力に酔ひて 打ち振ふ男子なれやも

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人の世の(昭和二十一年)

作詞 斉藤宗吉
作曲 松尾先見

【一】
人の世の美しきものを 萠え出づる落葉松の芽に
想ひつつ一人わけ入る 細道は幽か続きて
夕映の赤きころほひ 迷鳥の心慕ひぬ

【二】
人の世の清けきものを わが歩みしばし止めて
かへりみる谿間の苔に 木漏日の斑にさして
厚かりし友の情けを 奏でつつ水流れ行く

【三】
人世の悲しきものを 一夜寝し山小屋の灯の
ほそほそとゆらめく如く 語らへる刻は積りて
相抱く友の中より 生れ出でし真実なりしか

【四】
人の世の寂しきものを 先人の求め歩みし
この道は遂に音無く 長き影移ろふ涯に
安息の心抱くは 若人の幾人ならむ

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